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大阪高等裁判所 昭和40年(く)95号 決定

少年 K・N(昭二一・七・二二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、(一)原決定の処分は、不均衡である、共犯者は、本件以外に多数の余罪があるのに短期少年院へ送られたり、保護観察処分になつている。(二)自分の非行事実のうち五件位は、直接やつていない。(三)委託補導から帰つた後転々職を変つた事実はない等の理由により、中等少年院へ送致した原決定に対し不服につき抗告を申し立てたというのである。

よつて本件刑事保護事件記録、少年調査記録を調査するに、右刑事保護事件記録中の各関係証拠によると少年は、原決定の罪となるべき事実として引用した右少年調査記録中の犯罪事実一覧表中一号、四号、八号ないし一〇号、一二号ないし一九号記載のとおり○井○三外数名の者と共謀の上昭和四〇年三月○○日頃から同年五月○○日頃までの間前後一三回にわたり、大阪市北区○○町○○番地○○商会旧館職員更衣室外九カ所において○田○弘ほか九名所有の現金三万円位婦人服八着ほか鞄、革靴、ワニ皮バンド等の商品合計約四〇点を窃取した事実が認められ、そのほか原決定が、少年の犯罪事実として認定している前記犯罪事実一覧表中の番号三号、六号、七号、一一号の○○百貨店及び△△百貨店の各書籍売場から書籍を窃取したとの事実については、少年も原審の審判の際に特に争つてはいないし、共犯者の○好○郎、○田○治らの各司法警察職員に対する供述調書謄本中にK・Nも窃盗の現場へともに行つて盗んでいるような供述があり、更に少年自身盗品の処分にも関係している事実があるから、他の共犯者とともに罪を犯したと疑うべき十分の理由はあるのであるが、一方本件は、多数の共犯者とともに多数回にわたり同種手口の窃盗(万引)を繰返している事案で、共犯者の供述も必ずしも誤りなしと保証し難いものがあるのと、警察官の取調の際にも少年は、他の窃盗事件については素直に自白しているのに右四回の窃盗事実については、事情を挙げて否認しているので右の窃盗の事実について少年の右否認を排斥して少年を有罪と認めるには、いささか証拠が不十分と考えられる。しかしながら右四回の窃盗事件のうち、前記一覧表中六号、七号、一一号の部分については、少年は、贓物たるの情を知り乍らその際の盗品たる書籍の売捌きに関係しているから、贓物牙保の罪を犯しているといわねばならない。そうであるから原決定で認定した少年の一七回の非行事実のうち少年の罪と認められないものは、ただ一回に過ぎないから、この点では原決定に影響を及ぼすとは考えられない。

次に少年の非行歴についてみるに、本件記録によれば、少年は前に二回窃盗、恐喝等の事件で警察に検挙せられ、昭和三八年一二月一〇日頃神戸家庭裁判所尼崎支部において、保護観察処分を受け、その後兵庫県三原郡○○町の電気店で委託補導を受け、翌三九年七月五日補導を解除されて帰宅した事実、その後同年九月頃から大阪市内で就職したが勤務状態は良くなく、家族の人の言うことも聞かず、悪友と交り、夜遊びをし、遂に不良の仲間とともに前に非行歴があるのに拘らず、本件の窃盗を繰返し、勤め先も四月下旬から出勤せず、五月中頃退職し、喫茶店等に出入りし放縦な生活をしていた事実が認められる。一方少年の家庭の保護状況をみるに、両親や兄などいるが、少年の保護についてはも早や無力の状態にあつたものと認めざるを得ない。

しかれば以上の諸点から勘案すると、少年に対してはも早や在宅保護の如きはその余地はなく、又少年の非行歴に徴すると相当の期間少年を保護施設に収容し、規律ある団体生活のもとで適正な保護矯正を施し、少年の健全な育成を期する必要があると考えられる。従つて少年を中等少年院に送致することとした原決定は相当であつて、共犯者たる少年が初等少年院に送致されたり、保護観察に付せられたものがあつたとしても、少年に対する右処分が不当であるとは認められないから、本件抗告は理由がない。

よつて少年法第三三条一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 笠松義資 裁判官 中田勝三 裁判官 荒石利雄)

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